増えた鍵と減った鍵は
2年前、9年間乗った車の鍵を義兄に渡しました。
職場の人間関係が悪く、どうしても昼ごはんのために帰宅しなければならなかった妹の送迎を行っていたのですが、人間関係の悪化の原因となっていたスタッフにとうとう経営者が退職勧奨したので、職場環境が変わり、送迎の回数も減ることになったのです。
思えば妹がうつになり、なんとしても車が欲しいと言い出すまで、まさか自分が車の鍵を持つようになるとは思ってもみませんでした。
けれど、車があれば何とか今の仕事を続けていける、できることなら続けたいという妹の言葉に、よし、運転免許を取りに行こうと思いました。
運転免許を持っていなかった私たちは、まずそこから取り掛かることになったのですが、妹も運転免許が取れれば状況が改善されると思えたのか、頑張って自動車教習所に通っていました。
そして卒業までにはもう、両親の熱心な勧めもあって、我が家には自家用車がやってきていました。
まだ運転免許がないため、鍵を持つことはありませんでしたが、車の鍵がこんなにも特別に感じるとは思ってもみませんでした。
運転免許を無事に取得してからは、心臓が口から飛び出すのではと思うほど緊張しながら、妹と二人、交代でもっぱら近くを走ったものです。
数か月してようやく一人で運転できるようになり、母の付き添いも断って車に乗るようになりました。
その頃にはもう私の鞄には、常にスペアの鍵が入っていて、家の鍵、車のインテリジェントキーの3つが、私にとっての鍵のすべてでした。
義兄の車が壊れ、これまでより車の必要性がなくなったあの日から、私の鞄の中には家の鍵だけが入っています。
当たり前に入っていた車の鍵の感覚もいつしか薄れ、最近ではしばらく使っていなかった自転車の鍵の方が、すっかりおなじみになりました。
こうして過ぎた時間を振り返ると、人生のうちで出会う鍵というのは、家にしても車にしてもどこか一期一会な感じがするものだとしみじみ思うのでした。