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合鍵が結ぶ、家族の絆。

夕方になると今も少年時代を思い出すのは、私が鍵っ子だったせいでしょうか。
授業が終わって、グラウンドでサッカーをやったりしていましたが、陽が傾いてくるとポツポツと友達が帰っていくんです。
私は、家に帰ってもまだ誰もいないのが分かっていたので帰りませんでした。
やがて一人になると、沈む夕日をずっと眺めていたものです。
そんな毎日のなかで寂しさを感じていたのでしょうね。
小学校の高学年になるくらいから、悪い仲間とつるんで荒れていったんです。
中学校に上がると、不良グループの一人になって、ずいぶん悪さをしたものです。
学校にも親が呼ばれて、夜、居間で母が泣いている姿もよく見ました。
自分が鍵っ子で、誰にも相手にされない苛立ちを誰かにぶつけていたんだと思います。
どこかで親を憎んでいたんでしょうね。
ふつうの子と違う育て方をしたのは、どこの誰なんだと。
或る日、私が鍵を開けると、いつもと違って玄関のドアが開いていました。
毎日、帰宅するのが遅い親父がそこにいたんです。
びっくりしましたが、声もかけずに通り過ぎようとしました。
すると親父が言いました。
お前にも迷惑かけたな。
ずいぶん寂しい想いをさせたと。
思いがけず立ち止まってしまいました。
お茶をすすりながら、親父は静かに泣いているようでした。
俺は、母さんも、お前も、みんなで生きていくために精いっぱい働いている。
恨まれても仕方ないかもしれないが、それでも一生懸命に生きてるんだ。
俺が早く帰って来れないのは、汗水垂らして働いている証拠なんだよと。
私は、雷に打たれたような気がしました。
始めて、親ではなく、一人の人間と触れた気がしたんですね。
今になって、ようやく親父の気持ちが分かります。
共働きで、自分の息子も、私と同じように鍵っ子です。
でも、息子を突き放しているわけじゃない。
家を守るために朝昼晩と必死に生きているだけなんだと。
親父は、もう定年退職して私の息子によく会いに来てくれています。
今では、私たちが働きに出ている間も、お袋と一緒に息子の面倒を見てくれる。
本当にありがたいことです。
頑張ってるかと帰宅した私に声をかけてくれ、土産だと田舎の野菜を置いて行ってくれます。
合鍵は今では、私たちと息子の分と、両親の分。
玄関に鍵が置いてあると、みんなが揃っている気がして安心します。
帰宅すると、私はいつもその鍵を見ます。
そして、その鍵の分だけみんな一生懸命生きてるんだなと慰められたりもしています。

admin in 鍵の管理