鍵を預けられるということ
もしも、自分が誰かに何かの鍵をあずけるとしたら、信頼できる人に預けると思います。
この人なら鍵を預けても大丈夫だと信じられるまで、おそらく預けることはしないでしょうし、もしも鍵を預けようと思ったら、その責任を果たせる人であるかどうか判断できるまで、保留にすると思います。
この場合の鍵は重要な鍵であることが大前提で、自宅の鍵や職場の鍵、あるいは金庫の鍵なども含まれることでしょう。
こうした鍵は、預けた相手によっては自分が損失を被ることがあるので、かなりしっかりと相手を見極めることが重要になってくると思われます。
私は長年個人経営の医療機関で働いていますが、これまでは出勤時に診療所のドアを開けるため、鍵を預かっていました。
診療所は院長の自宅とくっついているので、その気になれば休日に行って鍵を開け、中に入ることだってできます。
自宅と診療所が一緒になっているということは、鍵を預けることで自宅にある種のリスクを背負い込むことになると言ってよいでしょう。
けれど、そこは院長自ら面接をして選んだスタッフですから、よもやそんなことはないと信じてくれていると思います。
実際、診察日以外に鍵を開けて入ったことなど、20年間勤めてきて一度もありません。
初めはパート社員だった私が常勤に昇格し、カギを預かってから18年以上が経ちました。
いまではリニューアルして自動ドアとなり、外から開錠できる鍵が付いていないドアになりました。
ですので鍵はなくなり、毎朝院長が中からオートロックを解除しておいてくれないと入れず、たまに解除し忘れていて、表でぼーっと待たなくてはならないことがあります。
おそらくドアがリニューアルで新しくならなければ、いまだに私は鍵を預けられていたことでしょう。
そのためには誰よりも早く出勤しなくてはなりませんが、鍵を出して開錠するたびに、ここが自分にとっての職場であり、院長もそれを認めているからこそこうして自宅にも入れる鍵を渡してくれていると思うと、身の引き締まる思いがしたものです。